SESのマージン率はなぜ非公開なのか

結論から言うと、SESのマージン率が非公開でも違法ではありません。労働者派遣には2012年改正派遣法によるマージン率等の情報提供義務がありますが、SESで一般的な準委任契約(業務委託)はこの義務の対象外で、開示するかどうかは各社の判断に委ねられています。そのため業界の慣行として非公開が主流になっています。以下で、その制度的背景と商流の構造を詳しく解説します。

SESや業務委託の世界で働くエンジニアなら、一度は気になったことがあるはずです。「クライアントは自分の稼働にいくら払っていて、そのうちいくらが自分に届いているのか」。この差額、いわゆるマージンは、多くの場合エンジニア本人には知らされません。本稿では、なぜマージン率が非公開であることが多いのか、その背景を法制度と商習慣の両面から整理します。特定の企業を批判する意図はなく、業界の構造を理解するための材料として読んでいただければと思います。

派遣には開示義務があり、SESにはない

まず押さえておきたいのは、契約形態によって法律上の扱いが異なるという点です。労働者派遣については、労働者派遣法の2012年改正により、派遣元事業主にマージン率などの情報提供が義務づけられました。派遣会社のウェブサイトを探すと、事業所ごとのマージン率が掲載されているのはこのためです。

一方、SESは一般に準委任契約(民法上の委任・準委任)にもとづく業務委託であり、労働者派遣法の枠組みの外にあります。つまり、SES企業やエージェントがマージン率を開示しない場合でも、それ自体が法令違反になるわけではありません。2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス新法)は、業務委託の際に報酬額や業務内容などの取引条件を書面やメールで明示することを発注者に義務づけましたが、これは「フリーランス本人が受け取る条件」の明示であって、発注側が商流の上位からいくら受け取っているかの開示までは求めていません。

要するに、マージン率の非公開は「隠している」というより「開示する法的義務がない」状態がデフォルトになっている、というのが正確な理解です。

商流が深くなると、当事者にも全体が見えない

もうひとつの構造的な理由は、多重下請け、いわゆる商流の深さです。エンドクライアントから元請、そこから二次請け、三次請けと契約が連なる案件では、それぞれの階層で契約金額が決まっています。エンジニアと直接契約している会社が知っているのは、自分の上位から受け取る金額と、エンジニアに支払う金額だけです。エンド企業が最上流でいくら払っているかは、間に入る会社にも正確には分からないことが珍しくありません。

つまり「マージン率を開示してほしい」と言ったとき、開示できるのはその会社の取り分までであり、商流全体の中抜き構造は誰か一社が開示しても見えない、という限界があります。これは開示に消極的な理由にもなりやすく、「うちだけ開示しても誤解を招く」という説明がなされることもあります。

事業者側にも一定の合理性はある

マージンと聞くと「中抜き」という否定的な印象を持たれがちですが、マージンには実費と機能の対価が含まれています。営業活動や案件の開拓、契約・請求などの事務、支払いサイトの立て替え(クライアントからの入金前にエンジニアへ支払うケース)、与信管理、トラブル時の調整などです。正社員型のSES企業であれば、待機期間中の給与や社会保険料、教育投資もここから賄われます。

また、価格交渉の観点から、仕入れ値と売り値を全面的に開示したくないというのは、多くの業界に共通する商習慣でもあります。マージン率の非公開そのものが、ただちに不誠実さを意味するわけではありません。

ちなみに、派遣にマージン率の開示義務が課された2012年改正の背景には、リーマンショック後の派遣切りをめぐる社会的な議論があり、派遣労働者の処遇改善と情報公開が政策課題になったという経緯があります。派遣と似た働き方に見えるSESがその後も開示義務の外に置かれているのは、契約の建て付けが異なる(SESでは指揮命令権が形式上ベンダー側にある)ためであって、働く本人にとっての情報の重要性が低いからではありません。この「制度の谷間」に位置していることが、SESのマージンが見えにくい根本的な理由のひとつといえます。

それでも情報の非対称性は残る

とはいえ、エンジニア側から見れば、判断材料が足りない状態であることに変わりはありません。同じ案件・同じスキルでも、商流の深さや契約先のマージン設定によって手取りが大きく変わりうるのに、その構造が見えなければ比較のしようがないからです。

情報の非対称性が引き起こす問題は、単に「手取りが少なくなるかもしれない」ということにとどまりません。自分の市場価値を正確に把握できないため、キャリアの節目での判断(単価交渉のタイミング、契約先の乗り換え、正社員への転向やその逆)を、感覚に頼って行わざるをえなくなります。逆に、受領額が見えていれば、「クライアントは自分の稼働にこれだけの価値を認めている」という客観的な材料をもとに、次の一手を考えることができます。

この点は、業界全体としても少しずつ変化の兆しがあります。エンジニアの売り手市場が続き、フリーランス人口が増えるにつれて、選ばれる側である事業者間の競争軸に「透明性」が加わりつつあるからです。マージンを公開すること自体を差別化要素とする事業者が現れているのは、開示が経済合理的な選択になりうる環境が生まれてきた証左ともいえます。もっとも、公開されている「マージン率」の定義(分母が受領額なのか、何が含まれるのか)は各社で異なるため、数字の見かけだけで比較しない注意も必要です。

だからこそ、近年はマージン率や手数料を公開するエージェントや、クライアントからの受領額そのものを開示する事業者も現れています。フリーランス側にできる自衛策としては、契約前に「受領額を開示してもらえるか」「マージンは率か固定か、上限はあるか」「支払いサイトは何日か」を確認すること、複数の窓口で条件を比較することが挙げられます。開示に応じるかどうか自体が、その会社の姿勢を測るひとつの目安になります。

なお、当社(UNIFIRE RESOURCES)では、フリーランスの方との取引においてクライアントからの受領額を全件開示し、マージンを受領額の15%(月額上限20万円)としています。仕組みの詳細はフリーランス向けのご案内ページにまとめていますので、条件を比較する際の材料のひとつにしていただければ幸いです。